制作ねぶた
2023年
知事賞
JRねぶた実行プロジェクト
強弓 島の為朝
平安末期の武将で、天下無双の弓取りと称された源為朝。身の丈は六尺を超え、五人張りの弓を軽々と引いたという。後白河天皇と崇徳上皇が争った保元の乱では上皇方につき大奮戦するが、敗れて伊豆大島へ流罪となった。
伊豆の島々の巡察に出た為朝は、鬼が島という島へ上陸する。その島には赤鬼のような風貌の鬼夜叉という支配者がすでにおり、為朝を新たな支配者として認めようとしない。そこで為朝は鏑矢で海岸の大岩を真中から射抜き、打ち砕いて見せた。その勇猛さに面くらった鬼夜叉は、生涯家来として為朝に仕えた。
伊豆大島では疱瘡が発生しなかったことから、疫病をも寄せ付けない神としても崇められている為朝の勇姿に、新型コロナウイルスの終息を願うものである。
ねぶた制作/解説 竹浪 比呂央
マルハニチロ侫武多会
三日月祈願 山中鹿之助
戦国の世。出雲国(島根県東部)一円で大きな勢力を誇った尼あま子ご氏は、当主 尼子晴久の死により衰退し、ついには安芸国(広島県西部)毛利元就の軍門に降り滅亡した。
尼子氏の家臣として数々の武勲をあげ、卓越した戦略眼を持つ事から〝山陰の麒麟児〟の異名をとる山中鹿之助幸盛は、その智将ぶりで他軍より引く手数多だったが「忠臣は二君に見えず」と一切の誘いに応じなかった。
ひたすら主家の再興だけを願い、打倒毛利軍を心に固く誓った鹿之助は、ある晩三笠山みかさやまにかかる三日月へ静かに祈った。
「願わくば 我に 七難八苦を与え給え」
それは主権回復のためなら己を顧みず、どんな困難も乗り越えて見せるという覚悟の表れであった。
やがて祈りに呼応するかのように、鹿之助の周囲には復活の象徴である蝶が無数に舞い、幸運のフクロウが悠然と羽ばたく。
そして全てを包み込むが如く、瑠璃色の麒麟が縦横無尽に夜空を翔けた。
一途に尼子家復興を信じて奮闘した鹿之助の姿に、コロナ禍や戦禍などの災いが消え去り、再び平穏な世が戻る事を切に願うものである。
ねぶた制作/解説 手塚 茂樹
ねぶた大賞/
最優秀制作者賞
青森菱友会
牛頭天王
京都・八坂神社で素戔嗚尊と同体として祀られている牛頭天王。もともとインドの疫病神であり、武塔神とも呼ばれた。『備後国風土記』逸文によると、武塔神が旅の途中に訪れた南海で一夜の宿を請うたところ、裕福な弟の巨旦将来は拒絶し、貧しい兄の蘇民将来は快く迎え入れた。武塔神はその礼として「われはハヤスサノヲの神なり。後の世に疫病流行すれば、蘇民将来の子孫と言い、茅の輪を腰につけておれば免れさせる。」と蘇民将来に告げ、疫病から救ったという。こうした由緒による祇園信仰は、無病息災を願うものとして庶民の間に広まり、現在も八坂神社の神事である祇園祭の際には「蘇民將來子孫家門」の護符や粽が授けられる。また、弘前市の金剛山最勝院護摩堂でも牛頭天王が本尊と同等の秘仏として祀られ、疫病除けの御利益があると津軽の人々に信仰されている。
ねぶたは、新型コロナウイルスや戦争といった脅威を封じ込めるが如く、邪鬼と対峙し「蘇民將來子孫家門」の護符を人々に与える牛頭天王の姿を表現したものである。
ねぶた制作/解説 竹浪 比呂央
優秀制作者賞
プロクレアねぶた実行プロジェクト
大日大聖不動明王
密教では、森羅万象この世にあるすべてのものを包容する存在、仏の最高位を大日如来とした。その大日如来の化身とされているのが「大日大聖不動明王」である。
右手には煩悩や迷いを切り払う宝剣を、左手には生きとし生ける者すべてを正しい方向に引き揚げる羂索を持つ。眼を大きく見開き、牙を剥いた憤怒の形相はあらゆる仏敵を威嚇する。苦難を乗り越える力を与えてくれる仏であり、願いを達成させる慈悲深く尊い存在である。
このねぶたは、盤石座に鎮座する不動明王が念ずる功力を龍に化身させ、あらゆる困難から果敢に挑む者を守護する場面である。
ねぶた制作/解説 野村 昂史