制作ねぶた
2016年
ねぶた大賞/
最優秀制作者賞
JRねぶた実行プロジェクト
蝦夷ヶ島 夷酋 と九郎義経
寛政二年(一七九〇)、松前藩士にして「松前応挙」と称された画人、蠣崎波響(かきざきはきょう)によって描かれた傑作『酋列像(いしゅうれつぞう)』極彩色の豪華絢爛衣装に身を包み、こちらをねめつけるような視線を送る十二人のアイヌの有力者・酋たち。精緻せいちに描かれた、異国や別世界を思わせる姿形と気迫のこもった面持ちは、見る者に畏怖の念を抱かせ、目を奪われずにはいられない。
このねぶたは、昨秋、北海道博物館にて好評を博した酋列像の特別展から着想を得たものである。源九郎義経は奥州平泉で自刃せず、生き延びて北を目指したと密やかに伝えられる。津軽半島からさらに北へ、北へ。海を渡り、広漠たる大地、蝦夷地(北海道)へと辿たどり着く。そこに生きるは力強く、生命力に満ち溢れたアイヌたち。水草を求めて水辺へやってきた鹿を素手で仕留め、日々の糧とする。厳しい自然に立ち向かい、時に共存しながらたくましく生き抜くアイヌの姿と、それを目の当たりにして己の天命を全うしようと固く決意する義経であった。
北海道新幹線の開通を祝し、更なる交通網の発達と沿線の繁栄を祈願するものである。
ねぶた制作/解説 竹浪 比呂央
マルハニチロ侫武多会
海神 と 山幸彦
昔々…兄の海幸彦(うみさちひこ)から借りた釣針を無くした弟の山幸彦(やまさちひこ)は、どうすることもできず困り果て、海岸に座り込んでいた。そこへ突如現れた塩椎神(しおつちのかみ)の教えにより、深海に住む大海の主、海神(わだつみ)の宮を訪ねた。海神は大いに歓迎し、娘の豊玉毘売(とよたまひめ)と結婚させ、山幸彦も時を忘れて日々を楽しんだ。
数年後、深いため息と共に悩みを打ち明けた山幸彦を見た海神は、全ての魚達を集めて調べることにした。すると、長い間喉の痛みを訴えていた大鯛から、例の釣針が出て来たのである。鰐鮫(わにざめ)に乗って地上へ帰る山幸彦に、海神は釣針と、潮の満干を司る霊力を持った『潮盈珠(しおみつたま)』と『潮乾珠(しおひるたま)』を授けた。釣針を返しに兄のもとへ戻った山幸彦だが、海幸彦は素直に受け取らず争いになる。山幸彦は海神から貰った珠の効力で降参させ、その後は助け合い仲良く暮らしたのであった。
生命の源である、広大な海。最近は環境汚染が進みさまざまな弊害も起こっている。この状態が続けば、やがて我々は海神の怒りに触れるであろう。美しい海を、地球を未来に残すため、これからも自然の大切さを考えていきたい。
ねぶた制作/解説 手塚 茂樹
市長賞
青森菱友会
箭根森 八幡
時は平安。
本州の北の果て、いまの青森県下北半島は艮(うしとら)の鬼門に当たり、悪鬼が住みついては害をなしていた。人々は困り果て、遠く京の都まで行っては、名のある武士に鬼退治を頼み込んだ。その願いに応えたのは、武勇の誉れ高き源頼義。兵士たちを従え、東北へと進軍する。鬼の住まう佐井(青森県佐井村)へやって来ると、頼義は海水で禊みそぎし、一心不乱に武運の神である八幡神へ加護を祈った。
祈り続けること七日目。
にわかに暗雲たちこめ、波は逆立ち翻ひるがえり、突風が吹き荒ぶ。そこへ忽然と現れ襲いかかる悪鬼。身の毛もよだつ恐ろしい鬼の形相に苦戦を強いられる。と、その時。一軍の前に顕あらわれたるは八幡神。青龍に護り導かれ、神馬にまたがると、神通力を宿した弓矢をすっと空へ引き放つ。するやいなや、邪気を祓はらう音が海に鳴り響き、雲を蹴散らすと、悪鬼を射貫いた。轟音をあげ落ち来る悪鬼。八幡神の助けを得、鬼退治をすること叶った。頼義はこれに感謝し、神の箭やの根石(矢じり)がある場所に八幡神を祀ることとした。
これが現在も佐井村に鎮座まします箭根森八幡宮である。神馬にまたがり、神変の弓矢を引き放ちて、まさにいま悪鬼を射落とす武神・八幡神の姿をねぶたに顕現す。
ねぶた制作/解説 竹浪 比呂央